不動産投資をするなら、ある程度のところからは法人化した方が有利だという話を耳にすることが多いのではないでしょうか。
ここでは、法人化するメリットと、そのタイミングと注意点について解説します。

個人事業と法人の「税」の違い

不動産投資では、投資家本人が個人事業として行う方法と、株式会社や合同会社を設立し「法人」として行う方法があります。本業がサラリーマンであっても、不動産投資に関する部分を法人とすることができます。

個人と法人では税制面でどのような違いがあるか、みていきましょう。
※この記事は令和2年9月10日時点の国税庁の資料を参考に記載しています。実際の税率計算とは状況により異なる場合がありますので、詳しくは国税庁のHPをご確認いただくか、管轄の税務署までお問合せください。

不動産保有中の所得(家賃収入など)に対する税金

個人と法人では、以下のような違いがあります。
個人の場合所得が900万円を超えると合計税率が43%に達し、法人の実効税率を上回るようになります。このことから、所得が900万円を超えると法人化する方が良いと言われています。

◆個人の所得に対する税金

≪参考≫
所得税の速算表と住民税

課税所得金額
(千円未満の端数金額を切り捨てた後の金額)
税率 控除額 住民税率 合計税率
1,000円 から 1,949,000円まで 5% 0円 10% 15%
1,950,000円 から 3,299,000円まで 10% 97,500円 10% 20%
3,300,000円 から 6,949,000円まで 20% 427,500円 10% 30%
6,950,000円 から 8,999,000円まで 23% 636,000円 10% 33%
9,000,000円 から 17,999,000円まで 33% 1,536,000円 10% 43%
18,000,000円 から 39,999,000円まで 40% 2,796,000円 10% 50%
40,000,000円 以上 45% 4,796,000円 10% 55%
[令和2年4月1日現在法令等] (平成27年分以降)

◆法人の事業に対する税金

資本金規模1億円以下もしくは出資金等のない中小法人の法人税

課税所得金額 税率
800万円以下の部分 15%
800万円超の部分 23.2%
(平成31年4月1日現在法令等)

法人の場合、上記に加え法人住民税・地方法人税・法人事業税が課せられます。これら法人の所得に課税される税金の実質的な負担割合が実効税率です。
実効税率は法人の住所や規模などによって異なり複雑な計算をもとに算出されますが、概ね30~35%になります。

不動産を売却した際の譲渡税

個人の場合売却時の利益は分離課税で、不動産譲渡税は長期譲渡で約20%、短期譲渡で約40%です。

長期譲渡所得(所有期間5年超)の場合…所得税+住民税20.315%
短期譲渡所得(所有期間5年以下)の場合…所得税+住民税39.63%
(計算日は土地や建物を売った年の1月1日現在と取得日で計算します)

一方で法人の場合は、売却時の所得も法人税として課税されます。
ここまでを単純にみれば、収入が多ければ法人化した方がメリットがあり、5年を超えて保有してから売却する場合は、個人の方が有利ということになりますが、実際には損益通算や欠損金の繰越期間など、計算がもう少し複雑となりますので、実際のケースでシミュレーションすることが大切です。

法人化するメリット

高い節税効果

高所得での税率が抑えられる

個人では累進課税制により、所得が増えれば税率も上がります。高額な不動産所得が見込まれるなら、法人にすることで税率を下げることができ、節税することができます。

所得分散できる

不動産投資(賃貸経営)では、身内を役員にして報酬を支払うことが認められていて、経費扱いで自分一人にかかる所得を分散することができます。
個人事業の場合でも青色事業専従者給与の制度がありますが制限が多く、法人化することで会社として経費計上ができるだけでなく、受け取った個人も給与所得控除を受けることができ、その分節税となります。

経費計上できる費用が増える

出張手当・借上社宅・自動車の購入や維持費など、個人事業では経費にしにくい項目を経費計上できます。
支払い保険料を損金扱いできる生命保険商品なら、代表者や役員の保険を会社が加入することで経費算入が可能です。

退職金が出せる

法人化すると、代表者や役員に退職金を支払うことができます。会社にとって退職金は経費となり節税できますし、受け取る側にとっても単に一時金を受け取るのに比べて退職所得は一時所得にはない税制優遇があるので、双方にメリットがあります。

欠損金の繰越しできる期間が長い

決算が赤字になった場合の損金繰り越しは、個人の青色申告では最大3年ですが、法人なら最大10年※になります。
(※平成30年4月1日以後に開始する事業年度での欠損金額の場合)

相続税対策になる

個人名義の不動産は相続により相続税の対象になりますが、法人名義であれば代表者が亡くなっても相続対象にはならないので相続税は発生しません。
ただし、会社の株式は代表者が亡くなると相続が発生します。評価額が高ければ相応の相続税がかかりますので、生前に対策しておく必要があるでしょう。

信用度が上がり融資が受けやすい

事業拡大には金融機関からの融資が不可欠ですが、一般的に個人よりも法人の方が融資枠を大きくとれます。順調な経営により信用度を上げておけば、タイミングを逃すことなく資金調達でき事業の拡大を図れるでしょう。

法人化するデメリット

会社設立費用がかかる

法人の設立には、合同会社で10万円程度、株式会社は25万円程度の費用がかかります(電子認証の場合は定款印紙代4万円が無料になります)。司法書士に依頼する場合、手数料が2~5万円程度かかります。

ランニングコストがかかる

税理士報酬
個人なら自分で確定申告できますが、法人税の申告は非常に複雑で、間違えてしまった場合の問題も大きくなるので税理士に依頼するのが一般的です。事業規模にもよりますが、記帳などを自分で行い決算申告だけを税理士に依頼する場合でも、10万円程度は必要です。

社会保険料
法人化すると原則社会保険に加入しなければなりません。個人事業主とは異なり、法人の場合、従業員の人数に関わらず加入義務が発生します。
社会保険料は、報酬額によって決まってくるため、法人から受け取る報酬をいくらにするかによって金額は異なります。今後、社会保険料が上がる可能性も視野に入れ、報酬額を考えていくと良いでしょう。

個人の所得とは損益通算できない

個人事業では、不動産所得が赤字となった場合その赤字分を給与所得から差し引いて総所得を小さくすることができます。しかし、法人化すると個人所得とは別個のものとなるので、給与所得が高い人は給与に関する節税効果はなくなります。

法人化するタイミングと注意点

個人で不動産投資をスタートして途中で法人化する場合、物件の名義変更や不動産取得税が必要となります。物件数が多かったり価値が高ければかなりの負担になるので、それなりの事業規模を予定しているなら、最初から法人化しておくのがベストなタイミングだと言えるでしょう。

一般的に法人の税率を個人の税率が上回る所得900万円超のタイミングでの法人化が良いと言われていますが、それほど単純ではありません。経費算入できるものがどの程度あるのかによって、所得は大きく変動します。もともとの所得に加え、今後どのような物件をどのような借入れで購入するか、どの程度の経費負担が発生するかによっても、全体的なキャッシュフローに違いが出ます。
法人化する前には個々の要素を正確に把握し、それに応じた損益分岐点を割り出しておく必要があります。ある程度将来の不動産売買予定、賃料変動や空室リスクも加味してしっかりシミュレーションしたうえで、タイミングを決定しましょう。

また、サラリーマンの場合は、勤め先の就業規則違反とならないかの確認が肝要です。副業とみなされ懲戒処分となってからでは取り返しがつきません。

 

まとめ

法人化するベストなタイミングは、一般的には所得が900万円を超えたらと言われるものの、個別要素によって異なります。法人化はする際にも法人をやめる際にもコストや手間がかかるうえ、信用にも影響します。単純な税率の比較だけで安易に法人化するのは危険なのです。
専門家に相談したうえで、慎重に判断することをおすすめします。