不動産投資セミナーで「魔法の経費」などとよく言われる『減価償却費』。その所以は、毎年の確定申告において、実際の出費は無いにも関わらず経費計上でき、課税対象となる利益を抑えることができるところにあります。

ただ、この魅力的な減価償却費についても、きちんと知っておくべき注意点が存在します。今回は、減価償却費の計算と注意点について詳しく解説していきたいと思います。

減価償却費と節税の関係

減価償却費は、前述の通り、実際の出費を伴うことなく経費計上でき、結果支払う税金を抑えることができる、まるで魔法のような経費です。

給与所得のあるサラリーマン大家さんであれば、不動産所得をマイナス計上し、給与所得を含むその他所得と合算することで課税所得を小さくすることができます。うまく活用すれば、所得税率を下げることも可能です。

では、減価償却費がどのような方法で経費計上されるのかを確認しましょう。

減価償却費算出の2つの方法

減価償却費を求める方法には、以下の2つの方法があります。

① 定額法
【計算式】減価償却費=取得価格×定額法償却率
法定耐用年数の期間中、毎年同じ額の減価償却費を計上していく方法です。例えば100万円の資産を10年で償却する場合、毎年10万円ずつ償却することになります。

② 定率法
【計算式】減価償却費=(取得価格-前年度までの減価償却累計額)×定率法償却率
取得当初の価格からそれまでの減価償却累計額を差し引いた額に、償却率を掛けて算出します。例えば100万円の資産を10年で償却する場合、1年目は20万円、2年目は16万円、3年目は12.8万円と、毎年償却費が減少します。

平成10年4月1日以前取得の建物や平成28年以前の設備では、取得当初の節税効果の高い旧定率法が多く利用されていました。ただ、定率法は定額法にくらべて減価償却費は最初大きいのですが、年数が経過するにしたがって徐々に小さくなり、ある時期から定額法を下回ります。どちらの償却方法でも、元の取得価格は同じなので減価償却費の総額は同じになります。
(注記)
平成19年4月1日以後に取得した建物(躯体)、平成28年4月1日以後取得の建物附属設備(設備類)については、定額法に限定されています。

減価償却できる項目と耐用年数

定額法または定率法で算出した減価償却費は、耐用年数期間の最後まで毎年計上することができます。
ただし、減価償却できるのは建物(躯体)と建物設備に関してのみで、劣化することのない土地は対象にはなりません。
対象となる物には耐用年数がそれぞれ定められています。

建物(躯体)

アパート・マンション等の事業用不動産の耐用年数の一覧は以下の通りです。

建物の構造 耐用年数
鉄骨鉄筋コンクリート(SRC)造 47年
鉄筋コンクリ―ト(RC)造 47年
鉄骨造(厚さ3㎜以下) 19年
鉄骨造(厚さ3㎜超え4㎜以下) 27年
鉄骨造(厚さ4㎜超え) 34年
木造モルタル 20年
木造 22年

建物附属設備

代表的なものの耐用年数は以下の通りです。

構造・用途 細目 耐用年数
アーケード・日よけ設備 主として金属製のもの
その他のもの
15年
8年
電気設備(照明設備含む) 畜電池電源設備
その他のもの
6年
15年
給排水・衛生設備、ガス設備   15年

中古物件の場合

中古物件の場合、法定耐用年数の一部を経過している場合(法定耐用年数がまだ残っている場合)と法定耐用年数の全部を経過済みの場合(法定耐用年数の残りが0の場合)で計算方法が異なります。

■法定耐用年数の一部を経過している場合
【計算式】(法定耐用年数-経過年数)+(経過年数×20%)
年数に1年未満の端数があるときは、その端数を切り捨てます。
例えば築10年のRCマンションなら、(47年-10年)+(10年×20%)=39年 となります。

■法定耐用年数の全部を経過済みの場合
【計算式】法定耐用年数×20% 
年数に1年未満の端数があるときは、その端数を切り捨てます。
例えば築47年以上が経過しているRCマンションなら、47年×20% = 9.4 = 9年 となります。

建物(躯体)と建物設備の金額は不動産会社が発行する譲渡対価証明書などで確認しますが、その区分が難しい場合、設備は建物(躯体)に組み込みます。

同じ予算で投資物件を購入する場合、土地価格に対して建物価格の占める割合が大きい物件や残りの耐用年数の短い中古物件を選ぶことで、1年あたりの減価償却費をより大きく計上できます。短期間の節税を目的として、こうした物件を狙って購入する投資家もいます。
この場合、減価償却期間を終えた後は計上経費が減ることで、課税所得が一気に増えることとなるため、注意が必要です。

減価償却の注意点

減価償却というのは「帳簿上の建物価値」の下がった分を経費として損金処理しているのと同じことなので、「帳簿上の建物の価値」は毎年減価償却した分だけ減っていきます。
そこで、注意すべきポイントを3つ説明します。

注意点1:減価償却効果は期間限定

中古物件における減価償却の解説のところでも少し触れましたが、減価償却できる期間が過ぎると、その分経費計上できるものが減るため課税所得が増加します。購入時から行ってきた節税が、
ずっと続くことはありません。給与所得などその他の所得との損益通算によって節税効果を得てきた場合には、減価償却期間の終了後に想像以上の税金を納めることになるかもしれません。
資金に余裕があれば、設備を新しくする、新たに物件を購入するなどして対処が可能ですが、「魔法はいつか消える」と頭に留めておき短期的な節税効果に目を奪われ過ぎないようにしましょう。

注意点2: 個人の減価償却費は強制計上

法人は減価償却費をその年によっては計上しないという利益に応じた選択ができますが、個人の場合は毎年必ず計上しなければなりません。その年の不動産所得の赤字分を他の所得と損益通算してもまだマイナスになる場合、青色申告であれば翌年以降3年間まで繰り越して控除できますが、白色申告だと繰り越せないため控除の利用はできません。確定申告にあまり慣れていない方は、白色申告と青色申告の違いについても今一度確認するようにしておきましょう。

注意点3:売却時(譲渡税計算時)の取得費に影響する

不動産を売却した時、その利益(譲渡所得)に対して譲渡税がかかります。以下が譲渡所得の計算方法です。

譲渡所得=譲渡価格-[取得費+譲渡費用]
・譲渡価格…固定資産税・都市計画税清算金を含む売却代金
・取得費…[購入代金-減価償却した額]+購入時の費用(仲介手数料、測量費など)
・譲渡費用…売却時の費用(仲介手数料、建物解体費用など)

売却における利益といえば「利益=売却金額-(購入金額+売買時の費用)」と思いがちですが、不動産の場合、購入金額そのままではなく、減価償却の累計額を建物購入額から差し引き、「取得費」として計算するのです。
つまり、売却までの間に減価償却した分、結果として譲渡所得が増えることになります。
例えば、購入額5,000万円の建物を5,000万円で売却すれば、一見利益はゼロに見えますが、これまで恩恵を得てきた減価償却によって、取得費が減額される分、課税対象となる譲渡所得が増えるため、納税額も増えることになるのです。

まとめ

ここまでお伝えしてきたように、「減価償却費」は、実際には何も無いところから突然生まれる魔法の経費ではありません。最初に支払った建物や設備の代金を経費化しているにすぎません。
今回のコラムでは、当初は節税になることが、後に税負担が増える結果を招くこともあり、「節税」という目先の利益だけを見ていると、最後に落とし穴にはまってしまうかもしれないという注意喚起とした内容としました。
とはいえ、実際にはこの減価償却費をうまく利用して、タイミングよく物件を増やし、納税額をコントロールしている投資家もいます。こうした方法は経験やスキル、人脈などが必要となりますので、初めのうちは慎重に投資をすることをおすすめします。
いずれにしても、不動産投資で節税を考えるなら、出口までの税金対策を意識した戦略を立てることが成功の秘訣だといえるでしょう。